読んで楽しむクラシック

個人的備忘録も兼ねて、より音楽を楽しめるようにな文章を書きたい…そんなブログです。

指揮者考②

前回の続き。というか前回を踏まえて。
我が国が誇るスーパーレジェンド小澤征爾氏はどういった指揮者に該当するのか?


…典型的な職人タイプといえる。彼の指揮から発せられる情報量は指揮者の中でも超一級と言っても過言ではない。奏でられる音楽と指揮姿が完全に合致している、ということはオーケストラが完全に彼の意図を理解できるということだ。結果的に生まれる音楽には好き嫌いがあるのは仕方がないことだが、指揮をする人は彼をお手本にするべきと思う。


細かいことを言うと、彼の指揮は打点が非常にハッキリかつ、8ビートや16ビートなどの細かい拍も腕の動きで表現することが多いため半端でなくわかりやすい。そのため複雑なリズムや拍子を持つ近現代曲に部類の強さを発揮する。世間的な小澤征爾の名盤、となると近現代曲が非常に多かったり、メシアンに自作の良い演者として評価されるのも当然と思う。


近年は流石にお年を召されているために持ち前のスーパー指揮テクニックが発揮できないために、かつてのような演奏が困難になってしまっていることが非常に残念。体が動かなくとも、彼の意図が伝わる気心知れたサイトウキネンオーケストラや水戸室内管弦楽団と最後まで添い遂げてほしいと思う。


小澤氏の師匠であり、歴史上最大の指揮者であるカラヤン氏について。彼も職人タイプと思われるが結構変則的。


まずその指揮ぶりに小澤氏ほどの情報がない。そもそも目をつぶって指揮する時点でオーケストラへの情報量がかなり減っているわけで…その意味では暴君タイプのように感じるが、彼は暴君のようなことをしなくても長い時間をかけて自分色に染め上げたオケ=ベルリンフィルを手に入れることができた。拍子はしっかりとってくれるものの、打点が若干不明瞭なことが多い。フルトヴェングラーやバーンスタインに比べればはるかに分かりやすいが。だがしかし、これは全て音楽的意図によるもの考えられるあたりさすが帝王。只者ではない。


指揮ぶりに情報が少ないのは有名な彼の言葉「ドライブするのではなくキャリーするのだ」から考えると、オーケストラをコントロールするのではなく、方向性を定めてあとは自由にやらせるということからと考えられ、不明瞭な打点に関してもフルトヴェングラーに習った若干低音を先だしさせることで重厚な響きを目指す狙いがあってのもの、そしてあの特徴的な切れ目の全くないレガート、音楽の流れの良さはあの流麗な指揮ぶりあったのものといえる。あまり指揮者に邪魔されたくない、という強烈なプライドを持つトップオケからすればもう最高の人材。


まぁカラヤンとくればこの方。バーンスタイン。愛称レニー。彼の指揮を見たらなんとなく感じると思うが、第一に音楽表現、拍子は二の次。典型的魔術師タイプ。


指揮台でジャンプ、足踏み、唸り声当たり前の縦横無尽に暴れ回る様は多くの信者を生み出し、弟子たちはほとんど皆彼の指揮姿をパクり、いや真似、いや参考にした。相当に分かりづらい指揮のせいでオーケストラは一部除いてアンサンブルの精度が少し低い。しかしながらバーンスタインの生き霊が取り憑いたオーケストラは普通では考えられないような音楽を奏でてしまったりする。側から見たら何が何だか全くわからず、もはやスピリチュアルな領域に突っ込んでいると言える。


とは言っても野生の勘だけで音楽をしているのではなく、凄まじいまでの知識・知性のバックボーンがあってのもの。ハーバード、カーティス音楽院卒。特にウェストサイドストーリーをはじめとする作曲家としての目が冴え、スコアの特異な箇所を見抜き聴取に啓蒙するかの如く穿り出す。これがあるから彼の指揮台ダンスはただの踊りではない。霊媒師でもあり熱血教師でもあるのがこのお方。


古典派やブラームスの指揮ぶりは意外と大人しく真っ当なのはなにか遠慮でもあるのだろうか。